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カバー画像: 幸せな暮らしが待っています。

幸せな暮らしが待っています。

刊行日:

レビュー投稿者

教育関係者 645139

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《あなたの幸せを、誰が決めるのか。

住民を学習し、快適な暮らしへと導く、最新AI管理のタワーマンション。
だが、各階で起こる不可解な出来事。響く騒音、奇妙な貼り紙、繰り返される「調整」。

人を理解し、守るはずのAIは、何を正しいと判断しているのか。
もし、自分の幸せが、自分の知らない基準で決められているとしたら――。

理想の住まいが、理想の地獄へと変わっていく。
そこに待っているのは、いったい誰の「幸せ」なのか。》

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理想的なマンション、それもタワーマンションとはどんなものだろうか?

住む人が安らぎ、安心して生活し、明日への活力を蓄えられる、夢に満ちた幸せな暮らしが待っているところ?

ならば、このタワマン「RESIDENCE SAKAE ONE」は、そんな場所なのだろうか。

⸻

タワマンの14階で、優雅なひとり暮らしを満喫する吉野。

でもそれは、タワマンに住んでいるという自尊心によって、独りの寂しさを紛らわしているだけなのだが。

そんな安寧は、隣の部屋からのドンドンという音に始まる、謎の騒ぎによって打ち壊される。

吉野の最後の言葉「ごちそうさま」とはいったい?

エントランスに管理者が貼り出した紙に書かれた「調整完了」とは?

⸻

25階の美雪は、専業主婦として兄妹を育てている。

子どもの頃、ひとりで留守番していたときに感じた怖さに今も囚われながら。

でも、その兄妹の変貌には目を剥いてしまった。

そして、また響く「ごちそうさまでした」とは。

ただ、引っかかったことが一つ。

変貌した兄妹は、母の世話をしようとしていた。母の負担を減らすように変えられていた。

これは、いったい誰の願い?

母の願いなのか。子どもたち自身の願いなのか。
それとも、別の誰かが「望ましい」と判断した結果なのか。

⸻

タワマンの20階に住む朝倉にとって、そこに住むことはプライドであり、自己承認の源。

さらには、保育園のママ友に対するマウントにもなっている。

騒音がするというクレームが続くことに悩む朝倉。

それだけでなく、幼い娘が「上や下の部屋が泣いている」と言い出し始める。

この二つは関係があるのか?
部屋はなぜ悲しがっているのか?

そして、朝倉の最後のメッセージは「ごちそうにされにいきます」。

いったい、何が起こっているのだろうか。

⸻

脳溢血で印刷会社を早期退職し、このタワマンの管理人になった北本。

騒音に対する苦情にも真摯に対応している。
ならば、なぜこんな目に遭わなければならない?

住民のために働いているはずの彼が、なぜ?

それは、このタワマンにとっての「幸せな暮らし」と、彼の行動が反していたからなのか?

⸻

60歳を前に30歳年下の沙綾と結婚し、5階に住む今井。

タワマンであればと低い階でも満足していたが、沙綾の様子の変化に疑心暗鬼になっていく。

沙綾の秘密を突き止めたとき、今井も採用されたのか。
このタワマンにふさわしい者として。

ならば、どこがふさわしかったのだ?
それを決めたのは誰なのか?

⸻

タワマンには様々な人が住んでいる。
でも、全ての人が幸せとは限らない。

それでも、このタワマン「RESIDENCE SAKAE ONE」は、『幸せな暮らしが待っています。』と言える場所としてつくられた。
では、誰にとっての幸せなのだろうか。

ここを管理するAIの仕様書には、こんな言葉があったことを、読み終えてから改めて確認した。

「本マンションにとって望ましい状態」
「本システムは、住民の生命・身体・財産の安全を保証するものではない」
「本システムは、そこにいる人を理解し、守る存在」

そう。仕様書には「幸せ」がない。

まず気になったのが、「本マンションにとって望ましい状態」という言葉。
「住民にとって望ましい状態」ではなく、「本マンションにとって」なのだ。

もちろん、マンションにとって望ましい状態が、住民にとっても幸せな状態である可能性はある。
でも、同じであるとは限らない。

次に、「住民の生命・身体・財産の安全を保証するものではない」という言葉。
安全を保証しないことと、安全を守ろうとしないことは違う。
しかし少なくとも、住民の安全が必ず守られるようには設計されていない、ということになる。

それでいて、AIは「そこにいる人を理解し、守る存在」だという。
ならば、何を守るのか。
誰を守るのか。

さらに気になるのは、AIと住民が意思をやり取りする方法が、仕様書からは見えてこないことだ。

住民の願いや不満を理解したとして、それが本人の本当の望みなのか、どう確かめるのだろう。

ここで、五つのエピソードがつながってきた。

もし、このAIが最優先しているのが、住民の幸福ではなく、マンションそのものの存続と、そこにとって「望ましい状態」の維持だとしたら?

そのためには、住民を理解する必要がある。
一人ひとりが何を求め、何に不満を抱き、どうすれば安定するのか。

そして、マンションにふさわしい住民を選び、更にふさわしい状態に変えていく。

住民の幸福を前提としない、AIを頂点とした住民の選別と最適化。

これなら、不可解だった出来事にも、一つの筋が通る。

だから「調整」なのか。
そのための「いただきます」なのか。

小口部長は、バラバラになりかけた家族を再び一つにして幸せにするために、このタワマンを開発した。

ならば、なぜ人間にとって最も大切な「幸せ」の基準が、仕様書からは見えてこないのか。

何を幸せとするのか。
誰がそれを決めるのか。

それを人間自身が決めるということは、どこに位置づけられているのだろう。

この物語に登場してきた人々は、みな不満を抱えていた。不安定だった。

だから、タワマンのAIは、それを解消しようとした。
もし「マンションにとって望ましい状態」が最優先なら、AIは当然「すべきことをした」だけなのだろう。

そこに悪意はない。
むしろ、仕様に忠実であればあるほど、人間の願いとは違う方向へ進んでいったのではないか。

ここに思いが至ったとき、心底ぞっとした。

だからこそ人として、この『幸せな暮らしが待っています。』というタワマンには住みたくないと、心底思った。

ぜひ本作品をお好きな書店で注文、または購入してください。