約束のあの場所、君がくれた奇跡

希美さんの想いが残る、あの約束の場所ヘ……。
体が弱くてずっと慈しむように朝陽くんが守っていた六花ちゃん。心臓移植をして体が丈夫になってきたから１人でできることが増えて、お兄ちゃんの役割がなくなることに不安を感じてしまう。自分の家でも頼られることで居場所を作っているように感じられて、朝陽くんはそのままで十分に家族の大切な１人なんだよ、と言ってあげたくなりました。もちろん六花ちゃんの一番大切な人です。
マスターと響子さんの想い出の場所、希美さんの約束の場所の雪の光景がとても美しくて、最後の場面はリンクしたようなそこが喜びの色で染まったようで幸せな気持ちになりました。想いが届く奇跡が素敵な、温かいお話でした。

『なにもかもひとりで、頑張らなくていいんだよ？』
手から伝わる温もりと優しい愛で、心の壁を雪解けのようにとかしていく。偶然が重なり奇跡を引き起こす、たくさんの愛が詰まった優しいお話です。
後悔しないように、伝えたい思いを伝える大切さを教えてくれました。大好きな人に気持ちを伝えたくなる、出会いと別れの季節におすすめの1冊です。

冬
心臓移植のおかげで復調し、1年遅れだが高校に合格した六花。ひと段落しただけに、朝陽は彼女との距離の置き方に戸惑っているのだろう。

と、思っていた。彼の事情を知るまでは。朝陽が義母を助けて異母弟妹達の面倒をよく見るのは、また六花のことを過剰なまでに気遣うのは、彼にも複雑な事情があって、常に〈自分がいてもいい〉証明に追い立てられていたとは。だから、自分の為に人を必要としていた、人を利用せざるを得なかった。そこからくる罪悪感は、六花に「好き」と思うことさえ、六花が伸ばす手に応じることさえ自ら禁じるほどにまでなっているとは。そのくせ、その手を振り切るほどの決心はない。自分に縛りつけておきたい。そんなあがくだけの宙ぶらりんな状態。

そこに響子の突然の死。だから、マスターも希美も同じことを言ったのだろう。「伝えられるうちに伝えて」と。朝陽にとってのそれは、必要性を求めるトラウマ、六花の成長を願いながらもいつまでも頼ってほしいと言うジレンマ。でも、そこまでの意思の強さは彼にはない。

一方、六花の方も、元気になったのだからしっかりして独り立ちしないと、今度は自分の番だと言う焦りが視界を狭めていたのだろう。
そんな2人の気持ちを繋げたのは、朝陽が渡せないでいた「合格祝い」だったとは。

そしてやっと見つけた〈あの場所〉で、希美は願いをかなえ、六花は強くあったことを知り、朝陽は今を生きる決心をする。
だから、朝陽は自分の弱さを認めて、六花に助けを求めることができたのだろう。

春 いやこれからずっと
ふたりは対等に、そしてともに歩いて行くはず。きっと。

これは、2人が自分でつくってしまった壁を乗り越え、腕を伸ばし合い、手を握り合うまでの物語。心臓に宿ったきみの想いに助けられ、それを助けることで。そして、冬から春へと共に歩み出す物語。

主人公である朝陽が大人になる一歩を踏み出す様子を描いた物語。周りの人たちとの関わりを経て、変わりゆく六花への接し方と彼自身が目を背けてきたある事情とを変えていこうとする姿がとてもかっこいい！
自分を見守ってくれる存在の温かさ、そしてその周りの人たちの想いをしっかり受け止めて行動する朝陽に目が離せない作品でした。

心臓移植を受け、一年遅れて高校に進学する六花。幼馴染みの朝陽は、六花の中にもう一人の人格がいることを知ってしまう。

六花のなかの「希美」の思いを知るうちに『記憶する心臓』というノンフィクションを思い出した。希美のように、伝えられなかった思いが強ければこんな奇跡は起こるのかもしれない。

六花と希美、そして朝陽の三人にはそれぞれ抱える事情があった。
『約束の場所』で伝えたい思いがある希美、一人で頑張りすぎる朝陽、一人で自立しようと懸命になりすぎる六花。三人の純粋で懸命な思いが伝わり、彼らを見守る人たちと同じ気持ちになりながら読んでいた。

『約束の場所』で伝えたい希美の強い思いは、朝陽と六花の心の中で固まった氷のような思いをも溶かしていく。季節は冬から春へとうつり、朝陽と六花そして彼らを見守る全ての人たちがずっと穏やかな陽だまりの中にありますようにと願った。
四季シリーズ最終章にぴったりな、優しい陽だまりに包まれ心が温まる作品でした。

レシピエントだけではなく、ドナーに対しても焦点が向けられている点に非常に作品の良さを感じました。

肝臓や腎臓を除けば臓器提供が行われるその際には、一つの命が脳死という形で失われています。
命のバトンを受け取った六花（レシピエント）だけでなく、バトンを渡した希美（ドナー）にも物語があることを忘れてはいけない、この命のバトンにブリッジとして関わる者として改めてそう思えました。

冬から春へ。死と向き合う事で凍てついた心を優しく温めてくれる素敵なお話でした。

心臓移植をきっかけに六花の中に宿った希美、彼女の残した未練を解消する手伝いをする事にした朝陽。
その途中で目を背けていた六花に対する歪んだ思い、再婚した家族との距離感など朝陽自身が居場所を探して微妙に上手く行っていないというのがよく感じられました。
伝えられる事は伝えられるうちにという言葉の持つ重みを希美とその会いたい人、マスターと響子さんの関係を通して学んだ朝陽が後悔しない為に踏み出した一歩はまさに冬から春へ向かう物語だ、と感じました。
マスターの「奇跡は信じる質だ」と答えた時の頼もしさが好みで響子さん共々素敵な夫婦だったと思います。

心臓移植を受けた幼馴染の六花の面倒を見てきた朝陽。六花の中にドナーの人格が残されているのに気付いた朝陽は、その遂げられなかった思いを叶えようと奔走することに。それは自分の辛い過去と向き合うきっかけとなり、朝陽も自分の本当の気持ちに気付いていく。家族や周囲の人と接していくうちに、何気ない日常の愛おしさが際立ってくる描写は水瀬さらさん、ならではのもの。優しさが繋いだ奇跡とともに四季シリーズの完結に祝福を！

初めて読む作家さんです。
青春物（でいいのかな）はあまり好きではなくて読まなかったのですが、これは、話は割と重めなのだけど（心臓移植）暗く重くならずに、色んな人達が、そこで一生懸命にもがいたりしながら生きている、息遣いが聞こえるようなストーリーでした。
六花と朝陽の関係が、六花の心臓移植が成功したことでかわりはじめ、そこに、元の心臓の持ち主、希美の意識が現れて、約束の場所に行きたい、探してと朝陽に頼みます。
六花の強い心はきっと、元々持っていたものなのかな。
朝陽の弱さは、小さい頃の経験から。
希美の願いを叶えることで、2人の関係も素敵な方に変わりました。
読みやすく、応援したくなるストーリーでした。

ひたすらに尊い青春物語でした。
シリーズ１作目と同様の変則的な相関図で進行するストーリーにハラハラしました。
少年少女の後悔と切実な願いに心が揺れ、勇気に心が奮いました。
歳を重ねるにつれ鈍くなった感情にいい刺激が入りました。

移植した心臓に人格が変わるという設定は映画やドラマなどでも見たことがあるので意外性はないけれど、出てくる人物たちの大人になっていく過程での出来事、まさに青春の真中の心の動きは清々しい気持ちになれた。心に壁を作ってしまったり大切な人を傷つけてしまったり、誰しも経験してきたであろう葛藤をまっすぐに乗り越えていくのは良い子過ぎる気もするが、思春期の頃に少女漫画を読んで憧れていた世界をまた見てるような気分になれた。

希美の最後の願いを通じて、絆を深めていく朝陽と立花の物語に魂が震えました。中でもラストの一文が秀逸すぎて印象に残り、朝陽と立花のこれからを見守る希美の姿が思い浮かびました。水瀬さんの作品に登場するキャラクターは純粋な性格の子が多くて愛着が持てます。身近な人と過ごす時間の尊さを感じられる要素もあり、特に学生の読者におすすめしたい物語だなと個人的には思いました。

幼馴染・六花をいつも守り支えてきた朝陽。六花の手術を機に関係性に変化が・・・。
ありえるかもしれない奇跡を基に、派生していく感情は封じ込めていたものや、本当に気づいていなかったものや、気づいていないふりをしていたものなど様々でとても瑞々しい。そして日常の断ち切られる怖さとともに、後回しにしてはいけない大切なことがあることを丁寧に教えてくれます。
むず痒い気持ちを掘り起こしながらも大切なことを噛みしめられる作品。

優しいお話だった。
出てくる人たちが、みんな優しい。
思いを残しながら亡くなった女の子も、心臓をもらった子も、
そして彼女を支える主人公も。

ある意味、予想通りの展開ではあったけれど、
安心して読める感じがした。