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クイーンの悪手

刊行日:

レビュー投稿者

教育関係者 645139

5 stars
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《これは犯人の「悪手」なのか。すべてが裏返り、そしてそれさえも裏返る》

あまりにも重厚なミステリだった。

この事件に取り組む4人の刑事と、依頼を受けて参加したミロ。
それぞれの生活の様子から、些細なしぐさや言葉遣いに至るまで、丹念に描き込まれている。

特に、ミロと妻、母親、義父との複雑な関係が、変えることのできない過去という重荷と、そこから逃れられない苦しみを実感させる。

そして、事件を真剣に追うからこそ生まれる、5人それぞれの立場や考え方の違い。その応酬も生々しい。

さらには、ヘルシンキの街並み。
そして、捜査が進んでいく過程のリアリティ。

それらが総体となって、ミステリという枠を超え、様々な人が暮らすヘルシンキという街の存在をくっきりと浮かび上がらせていた。

ただ、読んでいて脳裏に浮かぶその街は、なぜかいつも真夜中だった。

そして、彼らが捜査することになった事件が、異様としか言えなかった。

丁寧に置かれた、全身を真っ白に塗られた若い女性の遺体。
その喉の中には、チェスの駒が押し込まれていた。

オーヴィスト警部は、国家安全保障情報局の元職員ながら現在は画廊を経営しながら、プロファイラーとして警察の委託を受けているミロに協力を求める。

でも、ミロは連続殺人が専門のはず。
いくら猟奇殺人とはいえ、早々とミロを呼び出すとは。

何か、まだ明かされていないことがあるのか?

ミロは、自分が抱えるいくつもの悩みやトラウマと向き合いながら、馴染みのライネ警部補と組み、ときには単独で動きながら、犯人のプロファイリングを進めていく。

その姿は、犯人逮捕への熱情だけでなく、自分の苦しみから逃れようとあがくために、この事件へ集中しているようにさえ見えた。

それどころか、手を差し伸べようとしている相手を、自ら拒絶しているようにさえ感じられる。

しかし、この事件そのものが、ミロを自分の苦しみと直面させていく。

遺体を調べるのは、法医学部教授であるミロの母。
さらに、遺体とチェスの関係について相談できるのは、ミロの義父。
どちらも、ミロの方から関係を絶っていた相手だった。

さらに、妻のために国家安全保障情報局を辞めたはずなのに、その妻との間にも深い溝ができつつある。

事件の捜査が続く中、遺体が白く塗られた理由と、喉にチェスの駒が押し込められていた理由が見えてくる。

やはり、死体を使ったチェスの連続殺人事件なのか。
ヘルシンキを巨大なボードに見立てた、チェスの攻防なのか。

そう。
タイトルの「クイーン」は、エラリー・クイーンではない。
チェスの「クイーン」。

では、これほど考え抜いて事件を起こす犯人が、「悪手」など打つのだろうか。

しかし、まだ第二の殺人は起きない。

読んでいるうちに、ミロの得意分野が生かせないどころか、彼がここにいる必要性まで疑わしくなってくる。

彼はなぜ、最初から呼ばれているのか。

これほど考え抜かれた事件を起こした犯人。
それなのに、その特徴が確実に突き止められていく。

これが、犯人が打ってしまった「悪手」なのか。

そして、少しずつ包囲網ができ上がっていく。

チェスの2手目となる新たな死体が現れる前に、犯人を突き止められるのか。

息を潜めるように読み続けていた、その先。

「黒く塗られた死体」の発見と同時に、予想を超えた展開が始まった。

すべてが裏返っていく。
そして、それさえも裏返る。

ぜひ本作品をお好きな書店で注文、または購入してください。