彼の空のユンカース
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刊行日 2026/05/18 | 掲載終了日 未設定
ハッシュタグ:#彼の空のユンカース #NetGalleyJP
内容紹介
31文字の中で、あの日のあなたと出会う。
曾祖母の遺品の鏡台に隠された、一通の手紙と歌集。
名前も知らない歌集の作者は、一体どこの誰なのか――。
(あらすじ)
高校生の雅美は、亡くなった曾祖母の遺品である鏡台から、自分宛と思しき手紙と一冊の歌集を見つける。
手紙に記されていたのは一首の短歌で、かつて雅美が大切な人と見た情景を彷彿とさせるものだった。
冊子は作者不明の手製の歌集のようだ。
なぜ曾祖母は、自分にこの手紙と歌集を残したのか?
雅美は友人の凜とともに、曾祖母の歌集の秘密を探り始めるが――。
短歌を通じて人生が交錯する、切なく優しい記憶の物語。
(特別収録:「ベッドひとつぶんの私たち」)
(著者プロフィール)
柊サナカ(ひいらぎ・さなか)
1974年、香川県生まれ。日本語教師として7年間の海外勤務を経て、2013年「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉『婚活島戦記』でデビュー。中国、韓国、台湾など29ヶ国以上で翻訳が決定されている『人生写真館の奇跡』をはじめ、『あとはおいしいご飯があれば』『喫茶ガクブチ 思い出買い取ります』『黒猫のいる回想図書館』など著書多数。シリーズ作品に「谷中レトロカメラ店の謎日和」、「天国からの宅配便」がある。
出版社からの備考・コメント
※書影は仮のものです。
※ゲラは校了の前のデータにつき、修正が入る可能性がございます。
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出版情報
| 発行形態 | ソフトカバー |
| ISBN | 9784575248920 |
| 本体価格 | ¥1,680 (JPY) |
| ページ数 | 224 |
閲覧オプション
NetGalley会員レビュー
教育関係者 645139
《一首の短歌が、忘れられた想いをもう一度空へ連れていく》
『彼の空のユンカース』
時は現代。
主人公は、吹奏楽部を続けるか悩んでいる高校生の雅美。
なら、このタイトルは?
ユンカースといえば、第二次世界大戦ごろのドイツの飛行機/エンジンメーカーのはず。
読み始めると、不思議なことが起きる。
99歳で大往生を遂げた雅美の曽祖母。その家の整理で雅美が持ち帰った鏡台に隠されていたのは、「まさみさまへ」と書かれた古びた封筒だった。
その中には、一首の短歌。
そして、吉本正三なる人物が詠んだ短歌を綴った冊子。
なぜ「なぞなぞおばあちゃん」は、自分宛にこれを残したのか。
雅美は友人の凛とともに、その意味を調べ始める。
オンライン歌会に出席したり、山中の風光明媚な深沢峡へ父と一緒にスクーターで向かったり。
雅美の行動力に感心するだけでなく、短歌に惹かれていく感受性の鋭さが、眩しく感じられる。
永遠のものはない。
すべては移り変わっていく。
けれど、その一瞬を切り取るものが、短歌なのだと思う。
だから何十年、何百年が過ぎても、人の心に同じ思いを抱かせることができる。
だからこそ、90年近く前に吉本正三が詠んだ短歌が、雅美の心に自分事のように響いてくるのだろうか。
彼の短歌を詠み進めることで、彼が何を見て、何を思い、どう生きたのかまで追っていけるのだろうか。
そして、すべての謎――いや、因果が結ばれた時。
この物語の最初にさりげなく置かれていた場面を
、しっかり思い浮かべていた。
生まれた時に彼女が雅美という名に決まったのは、揉めた末での曽祖母の鶴の一声だったのだ。
あれから何十年たったとしても、その想いはずっと残っていたのか。
曽祖母と雅美。
ふたりが同い年だった時の想いは、時間を超えて、確かにシンクロしていたのだと思う。
満州で正三が見上げたであろう、日本行きのユンカース社製旅客機。
その姿を雅美とともに想像しながら、私はそう信じていた。
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『ベッドひとつぶんの私たち』
ハイリスク妊婦として、2ヶ月間の入院となった梓。
6人部屋にひとりでいる時間は、たしかに長く感じるだろう。
広すぎるだろう。
でも、そこへ一気に5人が入ってきたら、今度はカーテンで区切られた領地越しに、相手の様子がわかってしまう。
うかがってしまう。
それは、孤独がなくなるというより、別の形の孤立の始まりにも思えた。
看護師長の富田のおかげで互いにコミュニケーションを取るようになっても、まだ気遣いが先に立つのは仕方がないと思う。
このまま、互いに探り合いながら距離を詰めていくのかと思っていたら、梓の友人、八重が訪ねてくる。
八重?
やはり、ヤエだった。
彼女が「体が動かせなくてもできること」として、5冊の短歌の本を置いていったことが、ターニングポイントになるとは。
短歌の解釈を交わすことで、妊婦5人の心の距離が一気に近づいていく。
その様子に、ホッとした。
特に、パピヨンが態度を軟化させてくれたのがよかった。
そして始まる、短歌ブーム。
病室の5人とヤエを結んでの、オンライン歌会・産婦人科病棟編。
それぞれの短歌が本当に「らしくて」、読んでいてほほえんでしまう。
特に、国語が大嫌いなパピヨンが初めてつくったという短歌のセンスには驚かされた。
病室というのは、得てして気遣いの場、遠慮の場で終わってしまう。
でも、短歌はそこを、互いに認め合う輪の場に変えてくれた。
「ベッドひとつぶん」のそれぞれの世界が重なり、更に何倍、何十倍と広がっていくのを実感する。
だから、その後のトラブルにも、みんなは本気で心配し、心から喜んだのだろう。
でも、別れは必然。
距離は、長さだけではない。
時間にもある。
時間とは、離れていくしかない距離でもある。
だから人は、その寂しさを紛らわせるために、思い出という形へ変えていくのかもしれない。
でも、そんな何年分もの時間の距離を、一気に巻き戻す力が短歌にはある。
そのことを実感しながら、温かい気持ちに包まれて読み終えた。
書店関係者 2103841
曾祖母の残した謎を短歌・和歌を手がかりに探っていくミステリー要素のある作品で、おもしろかったです。
スマートフォンで光を当てて撮影・オンライン会議など、令和の子らしいやり方で謎を解いていく過程もよかったですし、
短歌を始めたことで人と人がつながり、正三の歌と曾祖母の歌を読みこむことで真相が解き明かされて行く展開に、ページをめくる手が止まりませんでした。
友だちが満州人の子孫であったこと、正三の死の真相など、思いがけない真実が明らかになる場面では、
雅美とともに自分の心も揺さぶられました。終盤には静かな感動がありました。
文章から場面が映像のようにイメージできて、すてきな読書でした。
短歌・和歌それぞれが表す光景の描写もすてきですし、
前半で特に印象に残ったのは、友だちと憧れの先生の様子を見て雅美がショックを受けてしまう場面です。
「絶望的なまでに綺麗」というそのときの情景が映像のようにイメージできて、雅美の切ない気持ちが伝わってきました。
友だちが性格も良くいい子なのでなおさら切なくなります。
後半で好きだったのはお父さんと一緒に深沢峡に行き、正三の歌集をよむ場面。
森の中の匂いや鳥の声や赤い橋が目に浮かぶようで、
短歌が(スマホの写真と同じように)景色をずっと記憶にとどめてくれるという雅美の実感に共感しました。
短歌・和歌を魅力だなあと感じました。よく知らないジャンルでしたが、この物語で読むと味わいがありました。
「文字数が少ないからこそ、思いを込められる」「時をこえて共感できる」というのが腑に落ちました。
平安時代の歌を令和の女の子が「エモい」と思うとは、まさにタイムカプセルです。(「エモ坊主」には笑いました)
雅美が初めて歌会に参加するために「コーンスープ」で歌をつくろうとする場面では、
短歌づくりのおもしろさを実感できました。(歌の内容はまた切ないですが・・・)
身の回りのものからでも、記憶と感情と言葉をつなげることで、こうやって歌をつくることはできるんですね。
5・7.5・7・7の型にはめると、行き場のなかった思いがかたちになるというところに共感しました。
だからこそ、ニューギニアで病死した吉本正三の存在に胸が詰まるような哀しみがあり、
彼の最後の歌を遺作とはしなかった曾祖母の思いもしみました。
曾祖母のなぞなぞを解いて、いろんな思いを胸に雅美がよんだラストのユンカースの歌がすごく良かったです。
また、SNSも「文字数が少ない」のは短歌・和歌と同じですが、議論には向かないし思いが届きにくい、という点を
中盤のギョウザスキーの場面で痛感しました。
「ベッドひとつぶんの私たち」もおもしろく読んだのですが、自分の出産時の嫌な出来事を思い出してしまい読み進めるのが辛い場面がありました。
あのときの自分にも、短歌をよんだり見せ合ったりできる時間があれば、
お産前後の特別な時間をイライラせずもっと楽しめたのかな、と思いました。
この本を若い妊婦さんにおすすめしてあげたいです。
この作家さんの本は読んだことがなかったですがファンになりました。他の本もたくさん出てらっしゃるようなので、読みたいと思います。
ありがとうございました。
教育関係者 528943
生命の尊さを、優しく明快に訓えてくれる、短歌をテーマにしたふたつの物語。
「五・七・五・七・七」
こんなに短い言葉で何を伝えられるだろう。削れば削るほど輪郭が曖昧になり、本当に伝えたい事は伝わらない。そう思っていたが、実は真逆なのかもしれない。伝えようと勇むばかりに余計な言葉で空回りしてしまうより、少し足りないくらいが丁度良い。
読み違いかもしれないが、恋と戦争もかかっているように感じた。少しずつ、知らぬ間にエスカレーションして歯止めが利かなくなる。すべての温度感がパーフェクトな物語だった。
しっとりとした表題作とは打って変わり、温度差があると感じた「ベッドひとつぶんの私たち」。
こちらもテーマは短歌で、表題作と繋がっていくと序盤とは異なるイメージに。短歌×戦争、短歌×妊婦、失われる命と生まれる命が対で描かれる事でよりリアルに感じられた。
「八ツ橋」と譬え、そこからまた言葉を紡いだパピヨンの感性がとても素敵で癒された。私も詠んでみたい、と「短歌」に興味を持つキッカケとなる一冊。