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カバー画像: スラムに水は流れない

スラムに水は流れない

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メディア/ジャーナリスト 1036613

著者がインド・ムンバイ出身ということもあり、貧しい地区で下層カーストの人たちが暮らすムンバイを舞台にしたこの作品は、ノンフィクションのようにリアルに描かれ、最後まで感情移入しながらどきどきしながら読んだ。働かなくては生きていけず、教育を最後まで受けられない人たちが多く住む街ムンバイ。そしてムンバイの人口の約40%が住むスラムと呼ばれている場所には市全体の水の5パーセントしか水が供給されていない。当然「水くみ」の列に並ぶ人々の間で水が行き渡らないこともあり、そこで起こる怒りや恐れ、イライラが争い事に発展する。そんな「水のない」環境で暮らす12歳のおしゃべりが大好きな少女ミンニとその家族。貧しいながら家族仲良く幸せに暮らしていたが、ある時「水マフィア」と呼ばれる水を盗む男たちをミンニの3歳年上の兄サンジャイと友人のアミットが近くに寄って目撃し、また男たちにも顔を知られたかもしれないので、サンジャイはアミットとともにムンバイの街を離れることになった。大好きな兄が側にいなくなり悲しむミンニ。そして追い打ちをかけるように家族のために夜明けの水汲みから家事や仕事(使用人)で朝から晩まで働きづくめだった優しい母が病気になり、療養のため田舎に行くことになった。母の代わりに(母が戻ってくるまで)高層マンションに暮らすアニータ奥様の使用人として学校帰りに働くことになるミンニ。父が店で働いているので水くみから家事もしなくてはいけない。わずか12歳の少女が水くみをしてその水を沸かし、学校に行き、学校帰りは使用人として金持ちの奥様の家で働く。家に帰ってからは食事作りた残った家事。今、この現代で水のある幸せな暮らしをしている私たちに、ミンニの生活がどんなに酷だったか考えられるだろうか。働いていると疲労と睡眠不足で勉強もできない、勉強ができないと試験に落ちてしまい進級もできない、学校もやめなくてはいけない、やめるとよいお金がもらえる仕事につけない、でも働かないと生きていけない、こんな悪循環の中で頑張る12歳の少女ミンニに同情し、涙がでそうになった。しかし、物語はここで終わりではない。最後までぜひ、読んで欲しい。ミンニを助けようとする周囲の人たちの優しさ、親友との絆、そしてミンニに訪れた大きな奇跡、それらすべてがつながり、一つの素晴らしい映画を観た気分になった。

ぜひ本作品をお好きな書店で注文、または購入してください。