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涙の箱

刊行日:

レビュー投稿者

教育関係者 645139

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すべてのことに涙を流す「涙つぼ」。涙を集めて歩く「黒いおじさん」は、その涙を「純粋な涙」ではないと言う。やがて「涙つぼ」は泣けない「子ども」となり、「黒いおじさん」と一緒に旅に出る――「純粋な涙」を求めて。
そんな、大人のための童話。

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「涙つぼ」が涙を流すのは、心が震えたとき。葉が日差しにきらめいた瞬間や、どこからか笛の音が届くとき、近所のおばあさんが頬をなでてくれたとき。世界をそのまま感じ取ることのできる、そんな透明な心だからこそ、涙は自然にあふれ出すのだと思った。

「黒いおじさん」が「涙の箱」から見せてくれた涙の一粒一粒――それは、生きている場面そのものの感情が詰まった、美しく澄んだものだった。でも、「黒いおじさん」が探している「純粋な涙」はこれらとは違う。それは「自分が泣いていることにすら気づかず流す涙」だと言う。

「涙つぼ」は、頼まれても涙を流せなくなった。自分の涙が“純粋”でないことを知ってしまったから。「黒いおじさん」は謝り、去ろうとする。その誠実さが、かえって胸を打つ。

だからこそ、泣けなくなった「子ども」は、「純粋な涙」を探す旅に出ることに決める。両親がいつも笑っていられますように――そんなささやかな願いと共に、自分の涙の意味を知りたくて、そして「心の居場所」を求めて。

泣けない理由は、自分の涙が「純粋な涙」と思っていたものが、実は“寂しさ”に近いものだと気づき、恥ずかしく感じたからだろう。だからこそ、その頭を撫でてやりたくなった。「そんな涙も大切だよ」と伝えたくなった。

「黒いおじさん」が、いかに「純粋な涙」を求めているかは、「空が涙を流してらっしゃる」と雨に敬意を込めて語る姿からも伝わってくる。そして旅を続ける中で、「子ども」は次第に喜びや笑いも知っていく。それはきっと、喜ばしい変化なのだと思った。

旅の終わりで出会うのは、悲しみを抱えながらも泣けない「お爺さん」。「黒いおじさん」がもたらした涙達によって、長い苦しみの末にようやく涙を流す。喜びの涙さえも。涙は「感じること」そのものであり、立ち直りや新たな一歩のためにも必要なものなのだ、と実感した。

更に、「泣いてはだめ」と抑え続けた涙が影にあふれ、「お爺さん」の顔の影に泉のようにたまっていく幻想的な場面。「子ども」の目を通して見たその情景は、痛々しくもどこか懐かしく、あたたかく、ただただ圧倒されるばかりだった。

そして旅立つ「お爺さん」が吹く笛の音色で、「子ども」の涙と青いウグイスのさえずりがよみがえる。清められた心で響くその音は、優しさと慈しみをもたらしてくれたのか。

「子ども」はまた涙を流せる「涙つぼ」となったが、以前とは違う。喜びや愛も知った涙は、どんな色とも異なる美しい輝き。でもまだ「完全な涙」ではないことを、自分は「黒いおじさん」が語る前にわかってしまっていた。「純粋な涙」とは、無垢でなく、すべてを経験し包み込んだ涙のことなのだから。

この旅の終わりに、「黒いおじさん」が黒ずくめの理由もわかってしまった。彼もまた深い悲しみを背負って「純粋な涙」を探している。だからこの姿なのだと。

別れの場面で、初めて涙をこらえる「涙つぼ」。そうやって、自分の影と一緒に、一歩ずつ「純粋な涙」へ近づいていく。その先にある再会を、心から願いながら、読み終えた。

ぜひ本作品をお好きな書店で注文、または購入してください。