百年と一日

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刊行日 2020/07/15 | 掲載終了日 2020/08/31

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内容紹介

人間と時間の不思議がここにある。

柴崎友香 作家生活20周年の新境地物語集。

映画館、学校、島、アメリカの町、空港、銭湯……さまざまな場所で、人と人は人生のひとコマを共有し、別れ、別々の時間を生きる。 

代々「正」の字を名に継ぐ銭湯の男たち、大根のない町で大根の物語を考える人、解体する建物で発見された謎の手記――。

時間と人と場所を新しい感覚で描く物語集。



遠くの見知らぬ誰かの生が、ふいに自分の生になる。

そのぞくりとするような瞬間。

――岸本佐知子(翻訳家)


言葉によって、ありありと時空がゆがんでいた。

これは文学にしかできないことだ。

――後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

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柴崎友香(しばさき・ともか) 

1973年大阪生まれ。2000年に第一作『きょうのできごと』を上梓(2004年に映画化)。 

2007年に『その街の今は』で藝術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、 咲くやこの花賞、

2010年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞(2018年に映画化)、 2014年『春の庭』で芥川賞を受賞。

 他の小説作品に『待ち遠しい』『千の扉』『公園へ行かないか? 火曜日に』 『パノララ』『わたしがいなかった街で』『ビリジアン』『虹色と幸運』、

 エッセイに『よう知らんけど日記』『よそ見津々』など著書多数。 

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【目次】

一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話 


角のたばこ屋は藤に覆われていて毎年見事な花が咲いたが、よく見るとそれは二本の藤が絡まり合っていて、一つはある日家の前に置かれていたということを、今は誰も知らない 


逃げて入り江にたどり着いた男は少年と老人に助けられ、戦争が終わってからもその集落に住み続けたが、ほとんど少年としか話さなかった 


〈娘の話 1〉 


駅のコンコースに噴水があったころ、男は一日中そこにいて、パーカと呼ばれていて、知らない女にいきなり怒られた 


大根の穫れない町で暮らす大根が好きなわたしは大根の栽培を試み、近所の人たちに大根料理をふるまうようになって、大根の物語を考えた 


たまたま降りた駅で引っ越し先を決め、商店街の酒屋で働き、配達先の女と知り合い、女がいなくなって引っ越し、別の町に住み着いた男の話 


小さな駅の近くの小さな家の前で、学校をさぼった中学生が三人、駅のほうを眺めていて、十年が経った 


〈ファミリーツリー 1〉  


ラーメン屋「未来軒」は、長い間そこにあって、その間に周囲の店がなくなったり、マンションが建ったりして、人が去り、人がやってきた 


戦争が始まった報せをラジオで知った女のところに、親戚の女と子どもが避難してきていっしょに暮らし、戦争が終わって街へ帰っていき、内戦が始まった 


埠頭からいくつも行き交っていた大型フェリーはすべて廃止になり、ターミナルは放置されて長い時間が経ったが、一人の裕福な投資家がリゾートホテルを建て、たくさんの人たちが宇宙へ行く新型航空機を眺めた 


銭湯を営む家の男たちは皆「正」という漢字が名前につけられていてそれを誰がいつ決めたのか誰も知らなかった 


〈娘の話 2〉 


二人は毎月名画座に通い、映画館に行く前には必ず近くのラーメン屋でラーメンと餃子とチャーハンを食べ、あるとき映画の中に一人とそっくりな人物が映っているのを観た 


二階の窓から土手が眺められた川は台風の影響で増水して決壊しそうになったが、その家ができたころにはあたりには田畑しかなく、もっと昔には人間も来なかった 


「セカンドハンド」というストレートな名前の中古品店で、アビーは日本語の漫画と小説を見つけ、日本語が読める同級生に見せたら小説の最後のページにあるメモ書きはラブレターだと言われた 


アパート一階の住人は暮らし始めて二年経って毎日同じ時間に路地を通る猫に気がつき、行く先を追ってみると、猫が入っていった空き家は、住人が引っ越して来た頃にはまだ空き家ではなかった 


〈ファミリーツリー 2〉


水島は交通事故に遭い、しばらく入院していたが後遺症もなく、事故の記憶も薄れかけてきた七年後に出張先の東京で、事故を起こした車を運転していた横田を見かけた 


商店街のメニュー図解を並べた古びた喫茶店は、店主が学生時代に通ったジャズ喫茶を理想として開店し、三十年近く営業して閉店した 


兄弟は仲がいいと言われて育ち、兄は勉強をするために街を出て、弟はギターを弾き始めて有名になり、兄は居酒屋のテレビで弟を見た 


屋上にある部屋を探して住んだ山本は、また別の屋上やバルコニーの広い部屋に移り住み、また別の部屋に移り、女がいたこともあったし、隣人と話したこともあった 


〈娘の話 3〉 


国際空港には出発を待つ女学生たちがいて、子供を連れた夫婦がいて、父親に見送られる娘がいて、国際空港になる前にもそこから飛行機で飛び立った男がいた 


バスに乗って砂漠に行った姉は携帯が通じたので砂漠の写真を妹に送り、妹は以前訪れた砂漠のことを考えた 


雪が積もらない町にある日大雪が降り続き、家を抜け出した子供は公園で黒い犬を見かけ、その直後に同級生から名前を呼ばれた 


地下街にはたいてい噴水が数多くあり、その地下の噴水広場は待ち合わせ場所で、何十年前も、数年後も、誰かが誰かを待っていた 


〈ファミリーツリー 3〉 


近藤はテレビばかり見ていて、テレビで宇宙飛行士を見て宇宙飛行士になることにして、月へ行った 


初めて列車が走ったとき、祖母の祖父は羊を飼っていて、彼の妻は毛糸を紡いでいて、ある日からようやく話をするようになった 


雑居ビルの一階には小さな店がいくつも入っていて、いちばん奥でカフェを始めた女は占い師に輝かしい未来を予言された


人間と時間の不思議がここにある。

柴崎友香 作家生活20周年の新境地物語集。

映画館、学校、島、アメリカの町、空港、銭湯……さまざまな場所で、人と人は人生のひとコマを共有し、別れ、別々の時間を生きる。 

代々「正」の字を名に継ぐ銭湯の男たち、大根のない町で大根の物語を考える人、解体する建物で発見された謎の手記――。

時間と人と場所を新しい感覚で描く物語集。



遠くの見知らぬ誰かの生が、ふいに自分の生になる...


出版情報

発行形態 ハードカバー
ISBN 9784480815569
本体価格 ¥1,400 (JPY)

NetGalley会員レビュー

それぞれの短編のタイトルが長く、おおまかなあらすじになっている。現在の一日にはその前の百年があってこその一日っていう事なのかな…。毎日通っている道にある建物がある日更地になっていたりすると、以前あった建物が何だったのか思い出せない時がある。そんな事を思いながら読み進めた。一人一人の一日一日に歴史あり。その歴史はごく普通の歴史だけど、教科書にものらないし、劇的でもないけれど、何処かの誰かにとってはふと思い出す大切な記憶なのかもしれない。

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「小さな駅の近くの小さな家の前で、学校をさぼった中学生が三人、駅のほうを眺めていて、十年が経った」とか、「商店街のメニュー図解を並べた古びた喫茶店は、店主が学生時代に通ったジャズ喫茶を理想として開店し、三十年近く営業して閉店した」といった長~いタイトルがつけられた33の短~い物語。
とても不思議な構成に読み始めてからしばらくは戸惑う。

国も、地域も、時代も、年代も様々なそれらの物語は、うっかりするとたった3ページで100年が経っていたりする。場所にも人にも物にも容赦なく時は流れるが、そこにあるのはどれもがありふれた日常。一つ一つの話を読み終わっても「それがどうした?」と言いたくなるような話ばかりだけど、読み進めるにつれ全体として浮かび上がって来るのはのは「人間の営み」そのもの。
学校をさぼった中学生、路地に座り続けた老人、バブルに負けず営業を続けた「未来軒」の店主、30年営業したジャズ喫茶を閉店した店主・・・み~んな愛しく感じてしまう不思議な作品でした。

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不思議な構成です。あと、各章のタイトルが長いです。
お気に入りは
「大根の穫れない町で暮らす大根が好きなわたしは大根の栽培を試み、
近所の人たちに大根料理をふるまうようになって、大根の物語を考えた」

新しい試みで描く柴崎作品。
〈いつもは通りすぎるあの場所にも、さっきすれちがったあの人にも、こんな物語があるかもしれない〉
 
デビューからのファンと致しましては、
登場人物が多すぎない、連作短編ではない、長編を待っているのですが...

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淡々と時は流れ、人や景色が移ろっていく。車窓から見える景色が刻々と変わるように、山から水が流れるように、ただ穏やかに揺るがなく過ぎる時間。そんなものを描いているような、見ているような、そんな気分になった。

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歴史は人でできている。どの時代のどの一瞬を切り取っても、そこには人の思いと行動が存在する。作者はそこに思いを馳せたのではないだろうか。そして"人"は、その殆どが歴史に名を刻まない無名の人たちであり、でも確実にその時を生きていた。一軒の店も、町の様子も、人が成し得た証で、その場所を遡れば、また違った時代の人の思いが立ち現れる。それが繰り返される中に我々も生きていて、時に期せずして繋がり合ったり、奇妙に寸断されたりしながら等しく流れていく時間。百年の歴史も誰かの一日の集まりと積み重ね。それを静かに愛でる心持ちになる。

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現代の今昔物語であるかのような一冊。
切り取って、繋がっているようで、でもやはり断片だったりする。
オチを探す気持ちで読み続けると辛いけれども、知らない誰かとたくさんすれ違ったような気分に捉われる。

どこか、乾燥した国の今の自分たちに似ているようで似ていない人たちを遠眼鏡で覗いているような。それでいて、人生は一瞬の出来事なのだから大局を見る目で生きなさいと言われているような。
不思議な一冊。

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夜毎、写真を見せられる。色褪せたもの、煌びやかなもの。一枚一枚に語られる御伽噺。そんな生の断片33編を紡いだような物語集。 「一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再開したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話」これが巻頭。物語の中に引き込む強い磁力を持ったタイトル! 出来事が、次々と、淡々に書かれる。感情表現を極力排して、移ろう時の最中で、変わる風景と変わらない営み。 文字がここでないない何処かに私を連れてってくれる。最上の文学体験。

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生きる時代も場所も違う誰かの「なにげない日常」を綴った33つの掌編。まず目次の各章のタイトルの長さに驚く。まるであらすじようだ。どれも劇的な出来事は何も起こらないのだけど、読んでいると知らない誰かの人生の一部を垣間見ているような気持になる。だから一気に読むのではなく、一遍一遍いつもよりゆっくりと読んだ。「「地下街にはたいてい噴水が数多くあり、その地下の噴水広場は待ち合わせ場所で、何十年前も、数年後も、誰かが誰かを待っていた」を読んで、これって泉の広場界隈のことよね?と思ったのは私だけではないはず。#NetGalleyJP

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長い長いタイトルの短いお話が33編の掌編集。時代や国が判らない話もあるけれど、共通しているのは時間の経過。時を経て失われてしまった記憶、逆に記憶はあるのに、存在がなくなる寂寥感、喪失感、そうしたものが日常の出来事を織り交ぜながら淡々とした筆致で綴られ最後に鮮やかな〆の文章でストンと落とされる、そんな話が多かった。最初の話が気に入ったので1日3編ずつくらいのゆっくりとしたペースで読んだ。しみじみよかった。

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過ぎた日々を綴る33の短い物語たち。

ほとんどが登場する人間の名前も土地名も出てくることなく、
そこに記された描写だけを頼りに頭の中に情景を思い浮かべ読みました。

必要以上の色付けもなく、淡々と語られ過ぎてゆく物語にはまるで
どこかの知らない誰かの話を人づてに聞かされいるような感覚でした。
ふうん、そこには昔そんな人がいたんだね、と
真剣に聞いているのだか、聞き流しているのだか、そんなかんじで。

だけど、一つ一つの知らない誰かの思い出話には温度が宿っていて、
聞き流しながらも不思議と心地よさを感じていました。

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彼女の本は読んだことがなかった。読ませていただける感謝。きりとられた場所と時間と、それからずっと時が流れた、同じ場所や人。とても不思議な感覚に包まれる。慌ただしく過ぎる日々、あんなに暑かったのにもう冬の気配がする。時の流れを俯瞰させてくれるような。よくこんなプロットを思いつくなあ、これが凡人との違いなのか。
わかった、朝井リョウくんのたこ焼き仲間だ、この人。爆笑エッセイ、こないだ読んだものにでていた。これが人間、肌の温もり。(関係ないことを記してすみません。彼の新作エッセイ集に彼女と柚木麻子さん、窪美澄さんと食べまくるシーンがあるのです)


子どもや、わたし自身にも言ってあげたい言葉、二回出てくる。だいじなことだから、二回いうね、てやつなのかな?

「好きなこと、やらなあかんよ。自分が思うことをやり続けるのが、いちばん納得いくから」162

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記憶と景色の断片のようた短編集。時代も国もあらゆるものが馴染みがありそうで固定化されていないため、どこか浮遊感が漂う読後感でした。
自分の記憶の断片が浮かんだり過ったりするので、ある程度年齢を重ねてからの方が楽しめるかもしれないと個人的には思いました。

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なるほど「時間」がモチーフなのか。30近い短編はシンプルで読みやすいが、たいていは「虚しさ」や「淋しさ」を伴う。それは「時間」の経過が人にとって残酷であると認識しているからかもしれない。風呂屋の「正」の話しとか、噴水の話しとかが印象に残った。あんなにも「そこにいた」はずの自分が時間の経過とともに意識すら遠のく、まるでなかったのかように。ただ、タイトルで内容がもろバレで何か拍子抜けした。こんなにたくさん同じような話し必要なのかな。途中で飽きた。でも、最後まで読んだよ。

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なにげない日常の見慣れた風景にも歴史がある。誰の目にも止まらないような場所にも物語がある。短編小説にもならないようなショートストーリーが、ある場所・ある時間の歴史を教えてくれる。不思議な読書体験でした。

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