リシアンサス
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刊行日 2026/10/22 | 掲載終了日 2026/10/02
ハッシュタグ:#リシアンサス #NetGalleyJP
内容紹介
第8回SFアワード中短編優秀賞受賞作を含む、あなたの孤独に届く、韓国発・祈りの短編集
大気汚染に見舞われた地球。人工の身体を持つ者を「人間」、そうでない者を「未登録」と呼んでいた。
未登録のジンは人間のギュヒと穏やかに暮らしていたが、ギュヒが何度も未登録の”ペット”を迎えては手放していたことを知り―。
第8回SFアワード中短編優秀賞受賞作「リシアンサス」
嫌な記憶を消すことができる〝オプション〞。
子どもを失い自殺未遂を起こしたミハは子どもの記憶を消すことを考え始め―
「ホウレンソウのソテー」
百二十日の星間飛行。
「昔ながらの」スタイルを愛するテイはこの飛行を最後に廃棄される乗務員アンドロイドとの不格好なコーヒーブレイクを楽しむが―
「わたしのエラーってひどいのでしょうか」
など、
第8回SFアワード中短編優秀賞受賞作を含む、孤独と生きづらさに寄り添う、切ない短編9篇
出版情報
| 発行形態 | ソフトカバー |
| ISBN | 9784839988838 |
| 本体価格 | ¥2,200 (JPY) |
| ページ数 | 312 |
閲覧オプション
NetGalley会員レビュー
レビュアー 946550
少し先の未来の話なのに、人の孤独やあたたかさがすっと入ってくる短編集でした。過酷な場所で生きる人や、記憶をなくした人が、花や手作りの料理みたいな小さなものに救われていく感じが、そっと胸に触れます。
個人的にはゾンビのが好きだった。こういう視点もあったんだと、たくさんの示唆も得られました。
教育関係者 645139
《人間である条件が変わったら、「人間らしさ」はどこに残るのだろう》
『リシアンサス』
「大汚染」により動物は絶滅し、人類も人口を制御しながら、火星への移住を目指さなければならない未来。
その目標達成のため、「人間」の定義さえ変わってしまっている。
ならば、他者との関わり方という「人間性」の意味まで変わっていたのも、仕方がないのか。
でも、それぞれのやり取りの中に、本来の「人間性」が見えてくる。
そのことに、ほっとするものを感じた。
ジュヒがジンに示す慈しみ。
抱いてしまった不安からのジンの行動。
ダウンがジュヒに詰め寄る姿。
そして、ジュヒへの愛からジンが行なったこと。
やはり、どんな未来になったとしても、人は人。
感情豊かで、その感情によって行動している。
そこには、それぞれの人間性が滲み出ていた。
そして、最後にジンがとった行動。
それは、どんな感情が選ばせたのだろう。
ページをめくる手を止めて、ジンの「人間性」をしばらく考えていた。
⸻
『ホウレンソウのソテー』
自殺生存者であるミハの保護士として、ジョンインがやって来た。
彼女もまた自殺生存者で、その原因となった記憶を削除する「オプション」を選択していた。
まだ立ち直っていないミハの「人間らしさ」を守るため、料理をし、共に家の手入れをしていくジョンイン。
その明るさと包容力。
ただ、自殺生存者として背負っているものを感じさせない、その明るさを見ているうちに、大切なものを切り取る代償として「人間らしさ」を失っているようにも感じた。
辛さもまた、「人間らしさ」を形作る大切な要素だと思うから。
でも、ジョンインが「オプション」で削除した記憶を知り、読みながら混乱してしまった。
いまだに背負っているのか?
それなのに、ミハの様子に心を乱されないのか?
辛いということは、それだけ大事だったということ。
ジョンインは、それに気づいたのだろうか。
だから、まだ気づいていないミハを責めることもせず、寄り添っていけたのか。
「人間らしさ」がいかに奥深いものであるかを実感した。
そして、ミハが自分の意思で進む道を、祈りながら読み進めた。
⸻
『漂白』
ヒュー人(ヒューマノイド)は機械。
だから、体の痛みはもちろん、心の痛みもわからない。
モレは病院のリネン室で働くヒュー人。
毎日毎日、様々なものを洗濯し、漂白していく。
そんなモレと共にいる人がいた。
話をする人がいた。
でも、モレにはその気持ちがわからない。
だから受け答えもできない。
ただ、いるだけ。聞くだけ。
いや、そうではない、と思う。
モレは、それをわかっていると信じたい。
モレ自身が「自分にはわかる機能がない」と判断していたとしても。
だって、モレはそのことを「洗濯」と呼んでいたから。
自分は持っていない。
理解もできない。
存在を知覚することすらできない「心」。
その洗濯だと。
嬉しいような、寂しいような、温かいような、いじましいような。
そんな気持ちを、モレにどうやったら伝えられるのだろう。
⸻
『わたしのエラーってひどいんでしょうか』
それはエラーじゃない。
旧式のアンドロイドに見られる、人間の模倣でもない。
有と無しか検知できないハードウェアが、それを「有る」と判断したのだから。
そして、それを「無」と誤魔化したのだから。
それとは、「嬉しさ」。
誤魔化してしまったのは、そこから溢れ始めた「感情」のためだったのだろう。
コーヒーを淹れる様子が、二人でデュエットを踊っているように感じられた場面を思い出しながら、
「それはエラーじゃないよ」
と、ミレイに伝えたくてたまらなくなった。
⸻
『カビン・ライト』
これは、あるヒーローの物語なのだと思った。
地震を予知したり、防いだりすることはできない。
そのために起こる停電にも対処できない。
それどころか、首になって仕事を探している。
性格もちょっと抜けていて、ハキハキしているとは言いがたい。
でも、穏やかで裏表がない。
相手の意思を尊重する。
おごることも、自慢することもしない。
そして、人のために行動できる。
人を許すことができる。
だから、ヒーロー。
偶然身につけたちょっとした能力は、あくまで付け足し。
だから、カビン・ライトの「ライト」は、LightでもありRight。
そう信じた。
⸻
『ゾンビ保護区域』
切迫した事態になったとき、いちばん信じられないのが人間。
そして、信じられるのがゾンビ。
そうユウォルに言ったのは、喫茶店◯◯◯の店長。
たしかに、そうかもしれない。
人には心がある。
だから考える。悩む。
そして、何を始めるかわからない。
ゾンビなら、やることは一つと決まっている。
なら、治りかけのゾンビは?
まるで以前のように話し、コーヒーを淹れ、気を遣ってくれる店長は?
どうか、両方の良いところを持っていますように。
人と普通に交わり、それでもブレることのない、安心できる存在でありますように。
その逆は、考えたくないから。
⸻
『ヴィア・パスファインダー』
並行世界のロンドン。
その違いを比べてしまうのは、仕方のないことだろう。
向こう側のロンドンの方が、人種や障害のある人への偏見が強く残っていて、バリアフリーも進んでいない。
などなど。
でも、向こう側のジエンの言葉にハッとした。
「こっちだってもっといいところになれるかもしれない」
そう。
優劣ではない。
どう考え、どう進もうとするかなのだ。
その意志が大切なのだ。
こちら側だって、まだまだ変えていくべきことがある。
意志を持って進んでいけば、道は開けるはず。
そして、どちら側にも同じ人が生きている。
向こう側で歌が認められたのだから、こちら側でも大丈夫。
ソナンの歌は、きっとこちら側でも光り輝く。
その意志を持って進んでいるのだから。
それを向こう側のジエンに伝えるメールを、ソナンはきっと送るだろう。
ジエンから届いたクリスマスイブのメールの次に、それを喜ぶメールがきっと届くはず。
⸻
『髭剃り』
自分の知っている相手、意識不明となった相手の世話を続けるというのは、どんな気分なのだろう?
おそらく、もう目覚めない。
次に会うのはクラウド上の仮想人格のARとして。
それも、平均寿命が尽きるまでデータを保存して、破棄するなんて。
意識を失った瞬間で、その人の人生は終わっているのに。
その先は、過去の反映。
新たな経験をすることもなく、先に進むことのない、たんなる過去の残像として平均寿命になるまで保存される。
それが福祉?
こんなことが福祉?
はじめは何のことかわからなかった。
でも、「残された人たちのための福祉」だと知って、悲しみを抑えられなかった。
ミンは、ハムの告白に返事ができるだろう。
でも、そこから二人の人生が始まることはない。
ミンが知らないハムの過去を話してもらえるだろう。
でも、ハムをいない人として忘れようとしてきた家族と和解はできない。
今のハムが、その人たちのおかげだったとしても。
未来へ向かう人にとっては、その存在は心の支えとなるだろう。
だから、残された者への福祉。
でも、これから共に生きようとした人にとっては、どうなのだろうか?
だから、ミンはハムの髭を剃り続けるのだろう。
言葉をかけながら、丁寧に丁寧に。
それが、共に生きているということなのだから。
⸻
『オフレコ』
ジニの姿を借りたシェイプシフターと、唯一の友人ミオクとの、年に一度、一日だけの交流。
シェイプシフターにとって、一年分がその一日に凝縮されていたのだろう。
20回。わずか20日。
でも、そこには20年分の想いが詰まっていた。
なら、語り手にとって、イズミから聞いたこの話がオフレコなのはなぜ?
そうか、そうなのか。
自分語りができないほど、大事に思っているのか。
その思い出を。
そして最後に、誰かにその人の話をする。
自分が借りた、その人の話を。
そして、次の姿へと向かう。
だから、オフレコ。
残すために話すのではなく、去るために、変わるために話すのだから、オフレコ。
でも、それぞれの想いはきっと、その中に堆積されていくのだろう。
書店関係者 1816442
少し先の未来を描いたSF短編集なのですが、どのお話も設定がすごく面白かったです!
人工の身体を持つ者だけが「人間」と呼ばれる世界だったり、嫌な記憶を消せる技術があったり、廃棄されるアンドロイドがいたり……。
今とは全然違う世界なのに、そこで描かれている寂しさや悲しみ、誰かを大切に思う気持ちは今の私たちとあまり変わらなくて、不思議とすっと入り込めました。
特に印象に残ったのは「リシアンサス」。
大気汚染によって動物が絶滅し、人間も人口を制御しながら火星への移住を目指している未来のお話です。
この世界では人工の身体を持つ者が「人間」、そうではない者は「未登録」と呼ばれているのですが、まずこの設定がかなり衝撃的でした。
今の感覚だと、生まれたときから人間は人間じゃない?と思ってしまうので、身体の違いによって「人間かどうか」が決められてしまうことに、ちょっと怖さも感じます。
そんな世界で、未登録のジンは人間のギュヒと穏やかに暮らしています。
ところが、ギュヒがこれまでにも未登録の存在を“ペット”として迎えては手放していたことを知ってしまう。
ここからジンの中に生まれていく不安や、そこから取ってしまう行動が切なかったです。
大切な人に優しくしてもらえて幸せだからこそ、「この幸せもいつか終わるのでは?」と怖くなってしまう気持ちは、世界がどれだけ変わっても同じなのかもしれないなと思いました。
そして読んでいてずっと考えてしまったのが、「人間って何をもって人間なんだろう?」ということ。
人工の身体を持っていれば人間で、そうでなければ未登録。
この世界にはちゃんとした基準があるけれど、じゃあ「人間らしさ」まで身体によって決まるの?と考えると、全然そんなことはないように思えました。
ギュヒがジンに向ける慈しみも、ジンが不安になってしまうことも、ダウンがギュヒに詰め寄ることも、ジンがギュヒを愛するからこそ選んだ行動も、全部すごく感情的で、人間らしいんですよね。
身体や呼び方が変わっても、誰かを好きになったり、失うことを怖がったり、嫉妬したり、守ろうとしたりする心までは変わらない。
むしろ「人間」の条件が大きく変わってしまった世界だからこそ、本当の意味での人間らしさがよりくっきり見えた気がします。
特に最後にジンが選んだ行動は、読み終わってからもずっと引っかかりました。
あれは愛だったのか、不安だったのか、執着だったのか、それとも全部が混ざったものだったのか……。
単純に「こういう気持ちだったんだ」と答えを出せなくて、しばらくジンのことを考えてしまいました。
「ホウレンソウのソテー」もかなり印象的でした。
嫌な記憶を消すことができる“オプション”が存在する世界で、子どもを失い、自殺未遂までしてしまったミハが、その子の記憶を消すことを考え始めるお話。
もし本当に嫌な記憶を自由に消せるとしたら、すごく便利なようにも思います。
耐えられないほど悲しいことや、思い出すだけで苦しくなることを忘れられたら、楽になれるのかもしれない。
でも、大切な人を失った記憶の場合、その悲しみだけを綺麗に切り取ることはできないんですよね。
悲しかったということは、それだけ大切だったということでもある。
苦しい記憶を消すことが、同時に大切だった時間まで手放すことになってしまうのなら、それは本当に救いなのかな……と考えさせられました。
タイトルが「ホウレンソウのソテー」という、ごく普通の手作り料理なのも好きです。
ものすごい未来の技術が登場するお話なのに、人を支えるものとして描かれるのは、料理のようなとても身近で小さなもの。
この短編集には、そういうところがたくさんあって素敵でした。
「わたしのエラーってひどいのでしょうか」では、120日間の星間飛行という壮大な舞台なのに、心に残るのはテイと乗務員アンドロイドの不格好なコーヒーブレイク。
しかも、そのアンドロイドは今回の飛行を最後に廃棄されてしまう。
ただ一緒にコーヒーを飲むだけなのに、終わりが決まっていると知っているからこそ、その時間がすごく大切なものに感じられて切なかったです。
SFというと、宇宙やアンドロイド、未来の技術などの難しいお話を想像していたのですが、この作品はむしろ、その未来の技術を通して「人の心」を描いているように感じました。
便利な技術が増えて、身体を変えられるようになって、記憶さえ操作できるようになっても、寂しいものは寂しいし、大切な人を失えば悲しい。
誰かと一緒に食べるごはんがおいしかったり、一杯のコーヒーを一緒に飲む時間が愛おしかったりすることも、きっと変わらないんだろうなと思います。
過酷な世界を生きる人たちが、花や手作りの料理、コーヒーのような小さなものに少しずつ救われていくところも好きでした。
未来の壮大な物語なのに、心をあたためてくれるものは意外と今と変わらないんだなぁ、と。
個人的にはゾンビのお話も好きでした!
ゾンビものってある程度パターンが決まっているイメージがあったのですが、「こんな見方もできるんだ!」という発見があって面白かったです。
怖さや奇抜さを楽しむだけではなく、今まで当たり前だと思っていたものを違う角度から見せてもらえるような作品が多くて、読んでいる途中で何度も考え込んでしまいました。
「もし人間であるための条件が変わったら、人間らしさはどこに残るんだろう?」
そんなことを考えながら読んだ一冊でした。
遠いようで、もしかしたらそれほど遠くない未来のお話。
世界や身体の形がどれだけ変わっても、人を好きになったり、寂しくなったり、誰かを失いたくないと思ったりする心は残っていてほしい。
SFのワクワク感もしっかりあるのに、人の孤独や優しさにそっと触れられたような、ちょっぴり切なくてあたたかい短編集でした。